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基礎知識

退去の原状回復は、修繕と改修を
分けると負担が決まります

退去のたびに、壁紙や床の費用をどこまでご家族に求めてよいのか迷う。精算書を出したあとで「前からあった傷だ」と言われ、話し合いが長引く。有料老人ホームの事務長や生活相談員から、よく聞くお悩みです。負担の線は、国の指針とガイドライン、そして契約書で、かなりのところまで引けます。この記事では、工事を修繕と改修に分けて負担を決める手順と、入居から退去までの記録、次の入居までの工程を書きます。

構成:介護施設 修繕の窓口監修:鈴木貴行(介護施設営繕・修繕専門家)更新:読む時間:約22分

この記事が答える質問有料老人ホームを退去するとき、原状回復はどこまで入居者の負担?費用の分け方はどう決める?

有料老人ホームの退去時の原状回復で入居者の方が負担するのは、故意や過失、通常の使い方を超える使い方でできた傷みを直す費用です。年数がたって古くなった分(経年の劣化)と、ふつうに暮らしてできた傷み(通常の損耗)は、事業者の負担が基本です。国の有料老人ホームの指針は、国土交通省の原状回復のガイドラインを参考にするよう示しています。次の入居に向けて設備を新しくしたり、仕様を上げたりする工事は「改修」で、これも事業者が負担します。工事を修繕と改修に分け、修繕を原因ごとに分けると、精算の線が引けます。細かな範囲は、契約書と重要事項説明書で確かめます。

この記事の結論

  1. 入居者の方の負担は、故意・過失・通常を超える使い方による傷みだけ
  2. 経年の劣化と通常の損耗、次の入居のための改修は事業者の負担
  3. 入居者の方の負担でも、壁紙や床は住んだ年数で割り引く
  4. 負担の線は契約書の別紙に書き、入居のときの写真で裏づける
  5. 退去から入居までは、負担を決める流れと工事の流れを並べて進める

入居者の方が負担するのは、通常を超える傷みを直す費用です

有料老人ホームの退去時の原状回復は、「入居した日の新品の状態に戻すこと」ではありません。原状回復の費用の負担について、国の有料老人ホームの指針は、1つの資料を参考にするよう示しています。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。

ガイドラインは、原状回復を、借りた人の故意・過失や、通常の使い方を超える使い方でできた傷みを直すことと定めています。年数がたって古くなった分と、ふつうに暮らしてできた傷みは、家賃や利用料の中で貸す側が受け持つ、という考え方です。

原状回復の負担を分ける、4つの区分
区分中身居室での例負担
経年の劣化年数がたつと、誰が住んでも起きる傷み日焼けによる壁紙や床の色あせ、寿命による設備の故障事業者
通常の損耗ふつうに暮らすとできる傷み家具や介護ベッドの脚の跡、テレビや冷蔵庫の裏の壁の黒ずみ、画びょうの穴事業者
故意・過失、通常を超える使い方不注意や、ふつうではない使い方でできた傷み重い物を掛けて下地まで傷んだくぎ穴、たばこのヤニとにおい入居者の方
手入れ不足で広がった傷みもとは通常の損耗でも、放っておいて広がった分飲みこぼしを放置したしみやカビ、結露を放置して傷んだ壁広がった分は入居者の方
ふつうに暮らしてもできる傷みかどうかで、負担の側が決まる。負担を分ける、最初の問いその傷みは、ふつうに暮らしてもできるものかできる経年の劣化・通常の損耗事業者の負担できない故意・過失・通常を超える入居者の方の負担
図1 ふつうに暮らしてもできる傷みかどうかで、負担の側が決まる。

建物の賃貸借の契約で住むホームや、サービス付き高齢者向け住宅では、民法第621条が同じ考え方を定めています。借りた人は、通常の使い方でできた損耗と経年の変化を除いて、傷みを元に戻す義務を負う、という決まりです。利用権の契約のホームでも、指針がガイドラインを参考にするよう示しているので、同じ線で考えるのが基本になります。

国民生活センターも、同じ考え方で助言しています。年月の経過による損耗や、通常の使い方でもできる汚れや傷は、修繕の費用を入居者が負担する必要はないと考えられる、という内容です。ただし、契約書に費用の負担についての特約があり、入居者の方と合意している場合は、特約に従います。特約の扱いは、契約書の節で書きます。

工事は「元に戻す修繕」と「良くする改修」に分けます

退去のあとの工事には、性格の違う2つの工事が混ざっています。傷んだところを元の状態に戻す「修繕」と、次の入居者の方のために、元より良くする「改修」です。精算でもめる原因の多くは、この2つが1枚の見積の中で混ざっていることにあります。

退去のあとの工事を、修繕と改修に分ける例
工事修繕か改修か費用の負担
たばこのヤニで変色した壁紙の張り替え修繕入居者の方(住んだ年数で割り引く)
日焼けで色あせた壁紙の張り替え修繕事業者
物を落として割れた洗面台の交換修繕入居者の方(設備の年数を考える)
寿命で冷えなくなったエアコンの交換修繕事業者
まだ動く古いエアコンを、省エネの機種に替える改修事業者
床を、すべりにくい床材に替える改修事業者
手すりを足す、照明を明るいものに替える改修事業者
修繕は原因で負担を分け、改修は事業者が受け持つ。修繕と改修の違い元に戻す修繕良くする改修傷んだ所を元の状態に負担は傷みの原因で分ける退去のたびに出る元より良い状態にする負担は事業者計画と予算で決める1枚の見積の中で、修繕と改修の行を分ける
図2 修繕は原因で負担を分け、改修は事業者が受け持つ。

ガイドラインでも、次の入居者を迎えるための工事や、建物の価値を上げる工事は、貸す側の負担として整理されています。退去する入居者の方が付けた、通常を超える傷みを直すまでが原状回復で、それより良くする分はホームの投資です。この線を職員の間でそろえておくと、ご家族への説明が人によって変わることがなくなります。

修繕と改修を分けるには、業者に見積を頼むときに「元に戻す工事」と「次の入居のために変える工事」を別の行で書いてもらいます。分けた見積があれば、ご家族への精算書には、修繕の中の入居者の方の負担分だけを載せられます。会計でも、改修は資本的支出になることがあり、見積の書き方で処理が変わります。修繕費と資本的支出をどう分けるか、見積で何を準備するかは修繕費か資本的支出かは、見積の分け方で判断しやすくなりますにまとめています。

相談・見積は無料|お断り可・理由は不要

居室の場所ごとに、負担の分け方の例を並べます

負担の分け方は、場所ごとに例を並べておくと、立ち会いの場で迷いません。介護を受けながら暮らす居室では、車椅子や介護ベッドを使うのがふつうの暮らしです。車椅子や歩行器の当たり傷、ベッドの脚の跡は、通常の損耗として扱うのが自然です。

居室の場所ごとの、負担の分け方の例
場所事業者の負担になる例入居者の方の負担になる例
壁・壁紙日焼け、テレビや冷蔵庫の裏の黒ずみ、画びょうの穴、車椅子の当たり傷たばこのヤニとにおい、重い物を掛けて下地まで傷んだくぎ穴やねじ穴、落書き
床家具や介護ベッドの脚の跡、日焼けの色あせ、年数によるすり減り物を落としてできたへこみや割れ、飲みこぼしを放置したしみやカビ
建具・扉年数による扉のゆがみ、金物のゆるみ、戸車のすり減り強くぶつけてできた扉の穴や割れ
水回り年数による水栓のゆるみや、パッキンの傷み手入れを怠ってこびりついた水あかやカビ、物を落とした洗面台の割れ
設備寿命によるエアコンや照明の故障説明を受けた使い方に反して壊した設備
鍵なくしたり壊したりしていないときの、次の入居者の方のための交換鍵をなくしたときや、壊したときの交換
清掃通常の清掃をしていた居室の、専門業者による全体の清掃特約で合意しているときの清掃費

表の例は、ガイドラインの考え方を、介護の居室に当てはめたものです。実際の線は、ホームの契約書の書き方で変わることがあります。表をそのまま使うのではなく、自分のホームの契約書と照らして、別紙の形に直しておきます。介護の居室に多い長いシートの床を、どの区分で扱うかも、別紙で決めておくと迷いません。

認知症の症状が関わる傷みは、扱いを一律に決めないほうが安全です。入居中に壁や建具が壊れたときは、その都度、日付と写真を記録してご家族に伝えます。直すかどうかと費用の扱いも、そのときに話しておきます。退去のときに初めて伝えると、「聞いていない」という行き違いが起きやすくなります。

ドアや手すりの不具合を部品から見分ける方法はドアや手すりの不具合は、6つの部品のどれかですにあります。床が剥がれたときの手当てと床材の選び方は床が剥がれた・段差ができた。まず、つまずかない手当てをに書いています。

入居者の方の負担でも、住んだ年数で割り引きます

入居者の方の負担になる傷みでも、費用の全額を求めるわけではありません。壁紙や床のクッションフロアは、年数がたつほど価値が下がるからです。ガイドラインは、壁紙・カーペット・クッションフロアについて、計算の考え方を示しています。6年で価値が1円になる直線を引き、退去のときに残っている価値の割合だけを、入居者の方の負担とします。

傷みの原因が入居者の方にあるときも、壁紙は6年で価値が1円になる直線で負担の割合を出す。壁紙を張ってからの年数と、入居者の方の負担の割合1年張り替え費用のおよそ83%2年およそ67%3年およそ50%4年およそ33%5年およそ17%6年以上価値はほぼ残らない(1円)
図3 傷みの原因が入居者の方にあるときも、壁紙は6年で価値が1円になる直線で負担の割合を出す。

年数は、入居の年数で代えて数える方式がガイドラインで示されています。入居のときに新品でなかった壁紙は、その分だけ価値が低い状態から数えます。入居の前に張り替えていれば、入居の年数がそのまま使えます。

部位ごとの、年数の扱いと負担の単位
部位年数の扱い入居者の方の負担の単位
壁紙(クロス)6年で価値が1円になる直線で計算㎡単位が望ましい。傷のある面の一面分までは、やむを得ないとされる
たばこのヤニ壁紙と同じく年数を考える居室全体の清掃か張り替え
カーペット・クッションフロア6年で価値が1円になる直線で計算傷が何か所にもあるときは居室全体
フローリングの部分の補修年数は考えない補修した部分の費用
フローリングの全体の張り替え建物の耐用年数で計算(割り引きは小さい)傷みが床全体に及ぶときに限り、全体
畳表・ふすま紙・障子紙消耗品として年数は考えない傷めた枚数の分

たとえば、入居の前に張り替えた壁紙を、3年住んだ入居者の方がたばこのヤニで変色させた場合です。居室全体の張り替えが8万円なら、入居者の方の負担は年数で割り引いて、およそ半分の4万円が目安になります。6年以上住んだ居室では、壁紙の価値はほぼ残っていないため、入居者の方に求められる額はごく小さくなります。

計算には、壁紙や床をいつ張り替えたかの記録が要ります。退去のたびに、張り替えた部位と日付を居室ごとに残しておくと、次の退去で年数がすぐ分かります。設備や内装の年式を残す機器台帳の作り方は機器台帳は、竣工図と現地と保守の会社の3つで作りますにあります。

契約書と重要事項説明書で、先に決めておくこと

負担の線をどこに引くかは、最後は契約で決まります。有料老人ホームの契約には、利用権の契約、建物の賃貸借の契約、終身の建物の賃貸借の契約などがあります。どの形でも、原状回復の範囲、敷金の扱い、精算の時期と方法を、契約書と重要事項説明書に書いておきます。

原状回復について、契約で決めておくこと
決めること決め方の例気をつけること
負担の区分場所ごとの負担の例を、契約書の別紙の表にするガイドラインより入居者の方に重い線は、特約の扱いになる
年数の割り引き壁紙や床は、張り替えてからの年数で割り引くと書く張り替えた日の記録を残しておく
敷金受け取るなら、家賃の6か月分を超えない額にする退去のときに、原状回復の費用を除いて全額返す
清掃の費用入居者の方に求めるなら、特約として書き、金額の目安を示す入居のときに口頭でも説明し、説明した記録を残す
精算の時期と方法退去から何日以内に精算書を出すか、どこから差し引くか内訳と写真を添えて出す
明け渡しと残された物明け渡しの期限と、残された物の引き取りの方法亡くなっての退去では、ご家族の都合も聞いて決める

特約で、ガイドラインの考え方より入居者の方に重い負担を決めることもできます。ただし、ガイドラインは、特約が認められるための要件として3つを挙げています。特約が要る合理的な理由があり、暴利的でないこと。入居者の方が、通常の原状回復を超える負担だと分かっていること。そのうえで、その負担を負うと意思を示していることです。

清掃の費用などを特約にするなら、金額の目安と理由を書き、入居のときに説明して、説明した日と相手を記録しておきます。敷金は、国の指針で、受け取るなら6か月分を超えない額とし、退去のときに原状回復の費用を除いて全額返すことになっています。前払金(入居一時金)の返還は、原状回復とは別の決まりで計算するので、精算書では項目を分けて書きます。

入居のときの記録が、退去のときの話し合いを決めます

退去の話し合いがこじれるのは、多くの場合、入居のときの状態を誰も示せないときです。国民生活センターには、こんな相談も寄せられています。6年間入居したホームを出るときに、前の入居者のときからあった傷の修繕代を求められた、というものです。入居のときに、ご家族と一緒に居室の状態を確かめ、写真とチェック表で残しておくと、この行き違いは起きにくくなります。

同じ場所を、退去の日にも同じ角度で撮る。入居のときに写真を残す場所壁の4面(角から全体を)床(ベッドの位置も)天井と照明扉と鍵トイレと洗面エアコンと呼び出しのボタン
図4 同じ場所を、退去の日にも同じ角度で撮る。
入居のときのチェック表に書くこと
項目書き方
日付と立ち会った人入居の日付、職員の名前、ご家族の名前
すでにある傷や汚れ場所・大きさ・写真の番号を、1行ずつ
内装を張り替えた日壁紙と床を、いつ張り替えたか
設備の年式エアコン・照明・水栓など、居室の設備の型番と年式
ホームが付けたもの手すり・カーテンレール・棚など、ホームの持ち物の一覧
ご家族の確かめチェック表と写真を見てもらい、署名をもらう

写真は入居の日に職員が撮り、チェック表と一緒に、ご家族へ写しを渡します。撮る角度を決めておくと、退去のときに同じ角度で撮って並べられます。入居中に壊れたものや、入居者の方の希望で取り付けた棚なども、その都度チェック表に書き足しておきます。

入居のときの写真がない居室も、今から記録を始められます。居室の点検や修理で入る機会に、ご家族の了解を得て写真を撮り、その日の状態として残します。退去のときは、その写真より前からあった傷みかどうかを、そこから確かめられます。

退去の日の立ち会いは、入居のときの写真を並べて進めます

退去の日の立ち会いは、ホームの職員とご家族(または身元引受人)で行います。入居のときの写真とチェック表を持って居室に入り、同じ場所を同じ角度で撮りながら、傷みを1つずつ確かめます。その場で費用を決め切る必要はありません。

  1. 持ち物残された物と、ホームの物が残っていないかを確かめます。残された物の引き取りの期限も、ここで伝えます。
  2. 壁と天井入居のときの写真と並べ、新しい傷や汚れを指さしで確かめます。経年や通常の損耗はホームの負担になることも伝えます。
  3. 床へこみ・割れ・しみの場所を、写真の番号と一緒に書きます。部分で直すか張り替えるかは、見積のあとに決まります。
  4. 建具と水回り扉の開け閉め、水栓、トイレ、洗面台を動かして確かめます。寿命による故障は、ホームの負担です。
  5. 設備と鍵エアコン・照明・呼び出しのボタンの動きと、鍵の本数を確かめます。鍵をなくしていれば、交換の費用がかかります。
  6. 署名確かめた傷みの一覧に、職員とご家族が署名します。精算書を出す時期も、ここで伝えます。

立ち会いの場では、傷みの場所と程度を確かめるところまでにとどめます。負担の区分と金額は、見積が出てから、年数の割り引きも計算したうえで精算書にします。その場で「これは全部ご負担です」と言ってしまうと、あとで取り消しにくくなります。

亡くなっての退去では、ご家族が気持ちの整理をつける前に、立ち会いをお願いすることになります。日程はご家族の都合を先に聞き、写真を送って確かめてもらう方法も選べるようにしておきます。荷物の引き取りが済むまでは工事に入れないため、明け渡しの期限と残された物の扱いを、入居のときに説明しておきます。

精算書の根拠になる見積は、「一式」ではなく、場所ごと・㎡ごとの内訳で出してもらいます。一式の見積を分けてもらう方法と、1社の見積が妥当かを確かめる方法は「一式」を分けてもらえば、1社の見積でも判断できますにまとめています。

退去から次の入居までは、負担を決める流れと工事の流れを並べます

空室の期間を短くするには、負担を決める話し合いが終わるのを待たずに、工事の準備を進めます。負担の区分は写真と見積で後から決められるので、立ち会いが済んだら、業者の現地確認と見積の依頼を同じ週のうちに進めます。

負担の区分を決める流れと、工事の流れを並べて進める。退去から次の入居までの工程1. 退去の連絡を受ける(その日のうちに業者へ)2. 立ち会いと写真(退去の日)3. 見積と負担の区分(2〜5日)4. 修繕と改修の工事(2〜7日。精算書は並べて出す)5. 清掃と設備の点検(1〜2日)6. 次の入居
図5 負担の区分を決める流れと、工事の流れを並べて進める。
退去から次の入居までの、日数の目安と担当
段階日数の目安担当遅れやすいところ
退去の連絡当日生活相談員・事務業者への連絡が、立ち会いのあとに回される
立ち会いと写真退去の日職員とご家族ご家族の日程がそろわない
見積と負担の区分2〜5日事務と業者見積が「一式」で、区分ができない
工事2〜7日業者修繕と改修で業者が分かれ、日程が重ならない
清掃と点検1〜2日清掃の業者と職員設備の動きを確かめ忘れる
精算書契約で決めた期日(1か月以内など)事務張り替えた日の記録がなく、年数の割り引きが出せない

日数は、居室の広さや工事の中身、業者の空き具合で前後します。壁紙と床の張り替えと清掃が中心なら、退去から1〜2週間ほどで次の入居の準備が整うのが目安です。年度末や、退去が重なる時期は、業者の予定が埋まりやすくなります。

原状回復の工事は、外に任せる範囲を決め、何日で仕上がるかで外注先を選びます。その考え方は有料老人ホームの営繕は、居室の回転と共用部で外注の範囲を決めますにまとめています。いつもの業者の予定が埋まっているときは、ほかの頼み先にも声をかけられるようにしておきます。窓口は、フォームとLINEで24時間ご相談を受け付けていて、1回のご依頼で最大3社の見積をそろえられます。

こういうサービスは初めてだったので正直どうかなと思っていたのですが、修繕したい場所と状況を伝えるだけで相談できたので、思っていたより簡単でした。

ご利用者の声 東京都内・介護施設/施設管理・営繕担当

取材にもとづき掲載しています(施設名は非公開)。内容はご本人の申告によるもので、個人の感想です。

空室の期間は、改修を入れやすい時期です

居室が空いている間は、入居者の方がいるときには入れにくい工事ができます。音やほこりが出る工事、数日かかる工事、設備を止める工事は、空室のうちに済ませると、次の入居者の方の暮らしを止めずに済みます。費用はホームの負担なので、退去の予定が見えた段階で、何を入れるかを決めておきます。

空室のうちに入れやすい改修と、目安
改修費用の目安日数の目安ねらい
手すりの追加1か所1万〜5万円1〜5日トイレや入口での立ち座りを支える
照明の交換5,000円〜3万円即日〜3日夜間の足元を明るくする
エアコンの交換(1台)20万〜60万円半日〜3日寿命が近い機器を、入居中に止めない
床をすべりにくい材料に居室の広さと材料で変わる1〜3日転倒を減らし、車椅子でも動きやすく
扉を引き戸に替える扉の種類と壁の工事で変わる2〜5日車椅子での出入りを楽にする

金額は当窓口の目安で、建物の状態、地域、時期で変わります。改修は資本的支出になることがあるので、見積は修繕の行と分けてもらいます。改修を翌年度の予算に入れるときの組み方は修繕の予算は、前の年の秋から3つの区分で組みますにあります。手すりや段差など、バリアフリーの改修に関わる基準はバリアフリー改修は、介護保険・バリアフリー法・建築基準法で決まりますに書いています。

退去が年に何件あるかが分かっていれば、改修の費用も年間で見込めます。たとえば、年に8件の退去があるホームで、退去のたびに手すりを1か所足すなら、年8万〜40万円の予算になります。全室を一度に改修するより、空室のたびに少しずつ入れるほうが、入居者の方の暮らしへの影響は小さく済みます。

モデルケース:退去の精算で、問い合わせが続いた住宅型有料老人ホーム

モデルケース:定員42名の住宅型有料老人ホーム

精算書への問い合わせが、年10件ほどから2件に

変わったこと(結果)

負担の分け方を契約書の別紙の表にし、入居と退去の写真を同じ角度で撮るようにしました。すると、退去の精算書についてのご家族からの問い合わせが、年10件ほどから2件に減りました。立ち会いにかかる時間は、1回1時間ほどから30分ほどになりました。精算書を出すまでの日数も、退去から3週間ほどから10日ほどに縮みました。

背景と、困っていたこと

このホームでは、年に12件ほどの退去がありました。精算書は事務長が作っていましたが、負担の線は担当者の判断に任されていました。壁紙の張り替えを全額で載せる月もあれば、まったく載せない月もありました。入居のときの写真は残っておらず、「前からあった傷だ」と言われると、説明のしようがありませんでした。事務長は、ご家族への説明と業者とのやり取りで、退去のたびに半日ほどを使っていました。

決めたこと

ホームは、ガイドラインの考え方をもとに場所ごとの負担の表を作り、新しく入居する方の契約書の別紙にしました。すでに入居している方の居室は、点検で入る機会に写真を撮り、ご家族に写しを渡しました。見積は修繕と改修の行を分けて出してもらい、改修は年度の予算に回すことにしました。いちばん迷ったのは、清掃の費用を特約にするかどうかでした。金額の目安を示せないうちは特約にしないと決め、清掃はホームの負担のままにしました。

進めてみて分かったこと

入居中の方の居室の写真をそろえるのに、半年ほどかかりました。それでも、写真がそろった居室から順に、退去の話し合いが短くなっていきました。

このモデルケースは、介護施設でよく起きる流れをもとに組み立てた例です。実在の施設のお話ではありません。

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特養・老健・サ高住では、決まりの拠り所が少し違います

同じ退去でも、施設の種類によって、原状回復の決まりの拠り所が違います。有料老人ホームは契約の形で、サービス付き高齢者向け住宅は賃貸借の契約で、特養や老健は介護保険の施設の入所の契約で考えます。

施設の種類ごとの、原状回復の拠り所
施設居室の契約原状回復の考え方の拠り所
有料老人ホーム(利用権)利用権の契約契約書。国の指針は、国土交通省のガイドラインを参考にするよう示している
有料老人ホーム(賃貸借)建物の賃貸借の契約民法第621条と契約書
サービス付き高齢者向け住宅賃貸借の契約が基本民法第621条と契約書
特養・老健介護保険の施設の入所の契約居室は施設の一部。退所のあとの工事は施設の修繕として予算に入れ、入所者の方に費用を求めるかは契約書の条項で確かめる

サービス付き高齢者向け住宅は賃貸借の契約が基本なので、民法第621条の考え方がそのまま当てはまります。入居のときの写真とチェック表の作り方は、有料老人ホームと同じです。サ高住と小規模多機能の修繕を頼む業者の選び方はサ高住の修繕は、共用部と居室で頼み先と負担を分けて決めますにまとめています。

老健と介護付有料老人ホームでは、建物の使われ方が違うため、傷みやすい場所も違います。その違いが修繕にどう出るかは老健と有料では、傷む場所も、工事を入れる機会も違いますに書いています。特養や老健では、入所者の方の入れ替わりのたびに出る小さな修理を、月ごとにまとめて頼むと、業者とのやり取りの回数を減らせます。

退去が出る前に、平常時にしておくこと

平常時にしておくこと

  • 場所ごとの負担の表を作り、契約書の別紙にする
  • 入居の日に、決めた角度で居室の写真を撮る
  • 壁紙と床を張り替えた日を、居室ごとに残す
  • 見積は、修繕と改修の行を分けて出してもらう
  • 空室のうちに入れたい改修を、居室ごとに書き出す

居室の小さな修理を頼める先は「ちょっとした修理」は、職人の種類ごとに束ねて頼みますにまとめています。

退去の工事をいつもの業者に頼めない、修繕と改修を分けた見積をそろえたい、というときは、窓口にフォームかLINEでご相談ください。居室の写真と退去の日、入れたい改修をお送りいただければ、修繕と改修の行を分けた見積を、最大3社からそろえてお返しします。退去が毎月のようにあり、決まった内装の会社に単価で頼めているホームは、その会社とのやり方を続けるほうが早く進みます。

よくある質問

有料老人ホームを退去するとき、原状回復の費用は誰が払いますか

故意や過失、通常を超える使い方でできた傷みを直す費用は入居者の方が、経年の劣化と通常の損耗を直す費用は事業者が払うのが基本です。国の有料老人ホームの指針は、国土交通省の原状回復のガイドラインを参考にするよう示しています。細かな線は、契約書と重要事項説明書で確かめます。

壁紙の張り替え代を、全額入居者に求めてもよいですか

入居者の方の負担になる傷みでも、全額ではなく、張ってからの年数で割り引くのが基本です。ガイドラインでは、壁紙は6年で価値が1円になる直線で負担の割合を出すので、3年ならおよそ半分です。範囲も、傷のある面の一面分までが目安です。

車椅子で付いた壁の傷は、入居者の負担ですか

介護を受けて暮らす居室では、車椅子や歩行器の当たり傷は、ふつうの暮らしでできる傷みとして扱うのが自然です。扱いを契約書の別紙の表に書いておくと、退去のときに迷いません。

敷金から原状回復の費用を差し引けますか

差し引けます。国の指針は、敷金を受け取るなら6か月分を超えない額とし、退去のときに原状回復の費用を除いて全額返すよう示しています。精算書には、差し引いた費用の内訳と写真を添えます。

退去のときの清掃費を、入居者の負担にできますか

通常の清掃をしていた居室の、専門業者による清掃は、事業者の負担が基本です。入居者の方に求めるなら、契約書に特約として書き、金額の目安と理由を入居のときに説明して、合意を得ておきます。

亡くなっての退去で、荷物の引き取りが遅れています

荷物が残っている間は工事に入れないので、契約書の明け渡しの期限と、残された物の扱いを確かめて、ご家族と日程を相談します。立ち会いが難しいご家族には、写真を送って確かめてもらう方法もあります。

退去の立ち会いには、誰が出ればよいですか

ホームの職員とご家族(または身元引受人)が出ます。職員は入居のときの写真とチェック表を持って行き、同じ角度で写真を撮りながら傷みを確かめます。費用はその場で決めず、見積のあとに精算書で示します。

入居のときの写真がありません。どうすればよいですか

居室の点検や修理で入る機会に、ご家族の了解を得て写真を撮り、その日の状態として残します。退去のときは、その写真と比べて、そのあとにできた傷みかどうかを確かめます。写真がない時期の傷みを入居者の方の負担とするのは、根拠が弱くなります。

原状回復の工事は、退去から何日くらいかかりますか

壁紙と床の張り替えと清掃が中心なら、見積から工事、清掃まで、およそ1〜2週間が目安です。立ち会いの日に業者へ見積を頼み、負担の区分を決めるのと並べて工事の準備を進めると、空室の日数が縮みます。

くわしく:有料老人ホームの営繕は、居室の回転と共用部で外注の範囲を決めます

設備を新しい型に替える費用も、入居者に求められますか

求められません。次の入居に向けて元より良くする工事は「改修」で、事業者の負担です。見積では修繕と改修の行を分けてもらい、改修は資本的支出になることがあるので、会計の扱いも確かめます。

くわしく:修繕費か資本的支出かは、見積の分け方で判断しやすくなります

壁紙を張り替えた日が分からない居室は、どう計算しますか

前の工事の請求書や業者の記録から、張り替えた日を探します。見つからない部位は、年数の割り引きの計算ができず、負担を求める根拠が弱くなります。これからは、張り替えた日を居室ごとに台帳へ残します。

くわしく:機器台帳は、竣工図と現地と保守の会社の3つで作ります

ご家族が精算書に納得されないときは、どうすればよいですか

入居と退去の写真、見積の内訳、年数の割り引きの計算を並べて、負担の根拠を1つずつ示します。それでも話がまとまらないときは、ガイドラインの考え方に沿って負担を見直すことも考えます。ご家族は、消費生活センター(188)にも相談できます。

くわしく:「一式」を分けてもらえば、1社の見積でも判断できます

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監修者

鈴木貴行|介護施設営繕・修繕専門家

  • 30年以上営繕・設備管理の経験
  • 1,000施設超関わった介護・高齢者施設
  • 3,000件超修繕・設備改善の案件

介護施設の営繕・設備管理に30年以上携わり、1,000施設を超える介護・高齢者施設の現場に関わってきました。有料老人ホームの退去時の原状回復で、修繕と改修を分けて費用の負担を決める考え方と、立ち会い・記録・工程の組み方を監修しています。

経験した施設
特別養護老人ホーム有料老人ホームグループホームデイサービスサービス付き高齢者向け住宅
専門分野
給排水空調電気・照明トイレ・浴室床・壁扉・建具ナースコール

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