入居者の方が暮らしたまま進める介護施設の大規模修繕(居ながら工事)は、工事の順番と暮らしの予定を1枚に重ねた工程表で進めます。暮らしの予定とは、食事・入浴・行事・面会・感染症の時期などです。工事は外回り・共用部・居室の中の3つに分け、移動が要るのは居室の中の工事だけにします。居室の中は隣り合う数室を1つの区画にし、区画ごとに「移って、戻る」の2回で済むように組みます。移り先は着工の2か月前までに押さえます。3階建て・定員80名の特養で外回りと居室の設備を直す例では、8か月ほどの工程です。天気や開けて分かる傷みに備えて、月に数日の予備日を入れます。
この記事の結論
- 工程表は、工事の予定と暮らしの予定を1枚に重ねて作る
- 工事を外回り・共用部・居室の中に分け、移動が要るのは居室の中だけにする
- 居室の中は区画ごとに回し、1人あたりの移動を「移って、戻る」の2回にする
- 移り先は着工の2か月前までに押さえ、ご家族には1か月前と移動の2週間前に伝える
- 天気・開けて分かる傷み・体調・感染症に備えて、月に数日の予備日を入れる
居ながら工事の工程表は、工事の予定と暮らしの予定を重ねて作ります
入居者の方が暮らしたまま進める大規模修繕を、居ながら工事と呼びます。介護施設の大規模修繕の多くは、この形です。居ながら工事の工程表は、工事の順番だけでなく、施設の暮らしの予定と職員の予定を、1枚に重ねて作ります。工事の会社が出す工程表は工事の順番が中心なので、施設の側で暮らしと職員の行を足します。
| 予定 | 書く中身 | 誰が書くか |
|---|---|---|
| 工事の予定 | 足場、外壁、屋上、居室の中の工事の順番と期間。音が出る日、断水や停電の日 | 工事の会社 |
| 暮らしの予定 | 食事と入浴の時間、行事、面会の多い時期、受診の日、感染症が増える時期 | 施設長・介護の責任者 |
| 職員の予定 | 居室の移動の日の人手、立ち会い、鍵の開け閉め、ご家族への連絡 | 事務長・各階のリーダー |
3つを重ねると、ぶつかる日が見えてきます。たとえば、敬老会の週に足場を組む、入浴の多い曜日に給湯を止める、面会の多い年末に居室を移る、といった重なりです。工程表の段階で見つければ、工事の順番を入れ替えるだけで済みます。工事の途中で気づくと、工事を止めるか、暮らしの側に我慢してもらうことになります。
大規模修繕を、調査から記録まで時系列で進める全体の段取りと、改修の前の石綿の調査は大規模修繕は着工の2年前に動き出し、石綿の調査は設計の段階で済ませますにまとめています。この記事は、そのうち工事の期間の組み方を扱います。
工事は、外回り・共用部・居室の中の3つに分けて考えます
工程表を組む前に、工事を場所で3つに分けます。外回り(外壁・屋上・窓の外側)、共用部(廊下・食堂・浴室・機械室)、居室の中(空調の室内機・給水管・洗面・床や壁)です。3つで、入居者の方への影響と手当てが違います。居室の移動が要るのは、ほとんどが居室の中の工事です。
| 場所 | 暮らしへの影響 | 主な手当て |
|---|---|---|
| 外回り | 足場と養生のシートで暗くなる。窓を閉める日がある。窓の外を作業の人が通る | カーテンを閉める時間を決める。洗濯物を外に干さない日を伝える |
| 共用部 | 食堂や浴室、廊下が使えない日がある。音とにおい | 代わりの場所と時間をつくる。使う時間帯を避けて工事する |
| 居室の中 | 居室で過ごせない日がある。家具を動かす | 区画ごとに移り先へ移る。戻る日を先に伝える |
外回りの工事は、居室を移らずに済むことが多い一方で、期間が長くなります。足場を組んでいる間は、居室が暗くなり、窓の外を作業の人が通ります。窓を開けられない日が続くこともあるので、暑い時期と重なるときは、室温の見回りを増やします。
浴室の工事は、共用部の中でも暮らしへの影響が大きい工事です。運営の基準では、入浴は「入浴、又は清拭」とされていて、使えない日は清拭に替えられます。それでも替える日が長く続かないよう、浴室が2か所あれば片方ずつ直します。清拭への切り替え方は特殊浴槽が止まった。入浴は清拭に替えられますにあります。
相談・見積は無料|お断り可・理由は不要
設備が止まったら、
写真1枚から相談できます。
居室の中の工事は、区画ごとに「移って、戻る」の2回で済ませます
居室の中の工事を1室ずつ順に進めると、入居者の方の移動の回数が増えます。工事が済んだ部屋に隣の部屋の方が移り、その部屋が済んだら、また次の方が移る、という回し方です。空き部屋が1つしかないときに起きやすく、1人の方が3〜4回移ることもあります。
移動の回数を減らすには、隣り合う数室を1つの区画にします。区画の方は、工事の間だけ全員で移り先に移り、終わったら元の部屋に戻ります。1人あたりの移動は「移って、戻る」の2回です。そのかわり、区画の室数と同じ数の移り先が要ります。
| 区画の大きさ | 1区画の工期の目安 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 2〜3室 | 1〜2週間 | 移り先が少ない。床や壁まで直す重い工事 |
| 4〜6室 | 10日〜3週間 | 空調と給水の更新など、設備が中心の工事 |
| 階の半分 | 1か月前後 | ショートステイの居室などを、まとめて移り先にできる |
区画の工期は、工事の中身で決まります。空調の室内機を替えるだけなら1室で半日〜2日ほどですが、給水管を壁の中で替えるなら、1室で1週間ほどかかることもあります。工事の会社には「1区画の何室を、何日で終えられるか」を聞きます。その日数に、乾かす時間と片づけの日を足して、区画の工期にします。
ユニット化や多床室の間仕切りのように、居室そのものを作り変える工事では、区画の分け方と職員の体制がさらに大きく変わります。その段階の分け方は多床室の改修は、空ける居室の数で工事の区切りが決まりますにあります。
移り先は、着工の2か月前までに押さえます
区画で回すには、区画の室数と同じ数の移り先が要ります。移り先は、工程表の中でいちばん融通が利かないところです。空き居室は新しい入居で埋まり、ショートステイの居室は予約で埋まるからです。着工の2か月前までに、どの部屋をいつからいつまで移り先にするかを決めて押さえます。
| 移り先 | 使いやすさ | 気をつけること |
|---|---|---|
| ショートステイの居室 | 同じ造りの居室で、なじみやすい | 受け入れを止める期間の収入と、利用者の方への連絡 |
| 空き居室 | 同じ階なら移動が短い | 新しい入居を待ってもらう期間と、その間の収入 |
| 静養室・多目的室 | 仮の居室として使えることがある | ナースコール・照明・避難の経路・感知器の位置を確かめる |
| 同じ法人の別の施設 | 工事の影響を受けない | 移動の負担が大きい。ご家族の同意と送迎が要る |
| 入院や帰省の期間 | 移動が1回減ることがある | 日程が読めないので、工程表の前提にしない |
ショートステイや空き居室を移り先にすると、その間の収入が減ります。この分は工事費とは別に、法人の予算に入れておきます。移り先にする部屋は工事の会社と一緒に見て、ナースコールやコンセントの位置、ベッドの向きを確かめます。静養室などを仮の居室にするときは、避難の経路と、感知器やスプリンクラーの位置も見ておきます。
移り先が足りないときは、区画を小さくするか、ショートステイの利用が少ない時期に工事をずらします。区画を小さくすると工期は延びますが、移動の回数は2回のまま保てます。工期が延びると、仮設や養生の費用も増えます。居ながら工事では、仮設・養生・時間帯の割増が総額の2割〜4割になることがあります。その中身と確かめ方は仮設・養生・割増の割合は、施設が渡す条件で変わりますにまとめています。
移動の負担は、距離・なじみの物・時間帯で小さくします
同じ2回の移動でも、やり方しだいで入居者の方の負担は変わります。工夫は大きく5つです。どれも工程表に「移動の日」として書き込み、担当の職員と時間を決めておきます。
- 同じ階の中で動くエレベーターを使わずに済み、窓の外の景色や食堂までの道のりが大きく変わりません
- 家具の置き方をそろえる元の部屋のベッドやタンスの位置を写真に撮り、移り先でも同じ向きに置きます
- なじみの物を先に運ぶ写真、時計、ひざ掛けなど、毎日目にする物を先に運んでおきます
- 午前に移り、1日の人数を決める1日に移る人数に上限を決め、午後は落ち着いて過ごせるようにします
- 戻る日を先に伝える移る前に、戻る日と部屋をご本人とご家族に伝え、移り先の部屋にも書いて貼ります
認知症のある方は、部屋が変わると落ち着かなくなることがあります。目印の付け方や、知らない人の出入りへの配慮は認知症のある方への配慮は、工事の段取りで変化を小さくすることですにまとめています。移る日は、なじみの職員が付き添い、移ったあとの数日は夜の見回りを増やします。
家具の運び出しを、工事の会社に頼むか、職員でするかも決めておきます。ベッドやタンスを1区画分運ぶと、職員だけでは半日仕事になります。運ぶ作業は工事の会社に頼み、職員は入居者の方の付き添いに回るほうが、けがが起きにくくなります。家具の移動は、見積に入れてもらいます。
工程表の例:3階建て・定員80名の特養
3階建て、定員80名の特別養護老人ホームで、外回りと居室の設備を直す場合の工程表の例です。2階と3階に40名ずつの居室があり、1階に浴室、食堂、事務室があります。工事は、外壁の補修と塗装、屋上の防水、居室の空調の室内機と給水管の更新です。
居室の工事は、各階を5名前後ずつの8つの区画に分け、2階と3階で同時に1区画ずつ、1区画10日で回します。移り先は、各階の空き居室と静養室、談話室を仕切った仮の居室で、各階5名分を用意しました。外回りは暑さと雨の前に終え、居室の空調の工事は、冷房や暖房を使う日が少ない秋に置いています。
| 月 | 工事 | 暮らしの予定 | 移動と職員 |
|---|---|---|---|
| 4月 | 仮設、足場の組み立て、屋上の防水の下地 | 花見などの行事は工事のない日に | 移動なし。ご家族への説明会 |
| 5月 | 外壁の洗浄・下地の補修、屋上の防水 | 洗濯物は室内に干す。窓を閉める日を前日に掲示 | 移動なし。窓まわりの声かけ |
| 6月 | 外壁の目地の打ち替え、塗装 | 梅雨。雨の日は外回りを止め、予備日を使う | 移動なし。予備日の振り替えを毎週確かめる |
| 7月 | 塗装の仕上げ、足場の解体 | 暑さ。窓を閉める日は室温を見回る | 移動なし。見回りを1回増やす |
| 8月 | 居室の工事の準備(移り先の整え、採寸) | お盆の面会。工事を休む | 移動の2週間前のお知らせ |
| 9月 | 居室の区画1〜3(各階) | 敬老会の週は居室の工事を休む | 区画ごとに移る・戻る。移る日は各階3名を半日 |
| 10月 | 居室の区画4〜6(各階) | 予防接種の日は工事を入れない | 同じ。戻ったあとの数日は夜の見回りを増やす |
| 11月 | 居室の区画7・8、共用部の空調、検査と手直し | 感染症が増え始める。出たら居室の工事を止める | 最後の区画が戻る。ご家族へ終わりのお知らせ |
この例では、外回りと居室の中を、あえて重ねていません。重ねれば工期は短くなりますが、足場で暗い部屋に移ってもらうことになり、職員の手も2つの工事に割かれます。80名の施設で、各階に移り先が5名分しかないなら、重ねないほうが、移動の日の付き添いに人を回せます。
居室の区画の順番は、看取りの時期の方や体調の不安定な方の居室を、後ろに回せるように組んでいます。8つの区画のうち、どの区画を最後にするかは、9月の時点の状態で決め直します。
予定と実際の差は、5つの所で出ます
どれだけ工程表を作り込んでも、予定と実際には差が出ます。差が出る所は、だいたい決まっています。先に分かっていれば、予備日と順番の入れ替えで吸収できます。
| 差が出る所 | よく起きること | 工程表での備え |
|---|---|---|
| 天気 | 雨や強い風で外回りが止まる。梅雨と台風の時期に重なる | 外回りは月に3〜5日の予備日を入れる |
| 開けて分かる傷み | 外壁の下地や、壁の中の配管の傷みが思ったより広い | 追加の工事の決め方と、現場で決めてよい金額を契約の前に決める |
| 入居者の方の体調 | 看取りの時期の方や、入院・退院で区画の予定が変わる | その方の居室の工事を後ろに回せる順番にする |
| 感染症 | 施設で発生して、外の人の出入りを止める | 居室の工事を止め、外回りだけ続けられるかを決めておく |
| 機器と材料の納期 | 空調の機器やサッシが予定の日に届かない | 発注の日と納期を工程表に書き、着工の前に届く日を確かめる |
開けて分かる傷みは、居ながら工事でとくに困る差です。工期が延びると、区画の方が移り先にいる期間も延びます。追加の工事をどう決めるか、いくらまでなら現場で決めてよいかを、契約の前に決めておきます。工事の契約書で確かめる点は工事の契約書は、追加と事故の扱いから読みますにあります。
感染症が出たときに工事をどうするかも、着工の前に決めておきます。外回りの工事は、作業の人の出入りを建物の中と分けられれば、続けられることがあります。居室の中の工事は止めて、区画の方に元の部屋へ戻ってもらうか、移り先で過ごしてもらうかを決めます。
職員の仕事も、工程表に書き込みます
居ながら工事では、工事の会社だけでなく、職員にも仕事が増えます。増える仕事を工程表に書き込んでおくと、勤務表を組むときに人手を前もって足せます。書き込まずに始めると、移動の日に人手が足りず、入居者の方の付き添いが手薄になります。
| 仕事 | いつ | 人数と時間の目安 |
|---|---|---|
| 移動の付き添い | 区画が移る日・戻る日 | 各階2〜3名で半日 |
| 移り先の準備と片づけ | 移る日の前日 | 1〜2名で1〜2時間 |
| 朝の打合せ | 工事のある日の朝 | 担当1名と工事の責任者で10分 |
| 鍵の開け閉めと立ち会い | 居室や機械室に入る日 | 担当1名。入る時間を前日に決める |
| 掲示とご家族への連絡 | 工程が変わる日、移動の2週間前 | 事務の職員1名で30分〜1時間 |
| 夜の見回りの追加 | 移ったあとの数日 | 夜勤の見回りを1回増やす |
移動の日は、勤務表の上で「工事の日」として先に人を足します。入浴や受診と重ならない曜日を選ぶと、同じ人数でも余裕が出ます。毎朝10分の打合せでは、その日に音が出る時間と、入れない部屋を、各階のリーダーに伝えます。
施設の側の窓口は、1人に決めます。工事の会社の責任者と話すのはその人だけにし、職員からの要望はその人に集めます。窓口が何人もいると、工事の会社に違う指示が届いてしまいます。
ご家族には、着工の1か月前と、移動の2週間前に伝えます
ご家族への知らせは、2回に分けます。着工の1か月前に工事の全体を伝え、移動のある方のご家族には、移動の2週間前にその方の日程を伝えます。1回で全部を伝えると、自分の家族がいつ、どこに移るのかが分かりにくくなります。
| 時期 | 伝える相手 | 伝える中身 |
|---|---|---|
| 着工の1か月前 | すべての入居者の方のご家族 | 工事の中身と期間、音の出る時間帯、面会への影響、問い合わせ先 |
| 移動の2週間前 | 移動する区画の方のご家族 | 移る日と戻る日、移り先の部屋、持ち物の扱い |
| 工程が変わったとき | 影響のある方のご家族 | 変わった日と理由、新しい日程 |
| 工事の終わり | すべての入居者の方のご家族 | 終わった工事と、変わった所(空調の使い方など) |
お知らせの文は、工事の会社の言葉ではなく、ご家族が知りたい順に書きます。「いつ」「何が変わるか」「面会はどうなるか」「困ったときの連絡先」の順です。足場を組んでいる間は、玄関や駐車場の場所が変わることもあるので、図を1枚つけます。
移動のある方のご家族には、文書だけでなく、電話か面会のときに直接伝えます。移ることに不安を持つご家族もいます。移り先の部屋の写真を見せ、元の部屋に戻る日を伝えると、話が早く進みます。工事の音や粉じんへの対策の説明には騒音と粉じんは、時間帯だけでなく工法と区画でも減らせますが参考になります。
工事中の安全は、動線を分け、毎日の終わりに確かめます
居ながら工事では、入居者の方と作業の人が、同じ建物の中を行き来します。けがや事故を防ぐには、通る道を分けることと、毎日の作業の終わりに確かめることの2つが要になります。資材を運ぶ道は、食事や入浴の移動の時間と重ならないように決めます。
毎日の作業の終わりに確かめること
- 足場の出入り口と、資材を置いた部屋に鍵をかけたか
- 避難の経路に、資材や工具が置かれていないか
- 粉じんよけに感知器へかけたカバーを外したか
- 火を使った場所を、作業のあとに見回ったか
- 工事で入れなかった部屋が、元どおり使えるか
感知器やスプリンクラーを止めたり移したりする工事では、工事中の消防計画の届出を求める消防本部があります(東京消防庁や仙台市の例)。消防計画には、火を使う作業の監督、避難の経路の確保、止まる設備の代わりの手当てなどを書きます。着工の前に、所轄の消防署に相談しておきます。
消防用の設備の点検と、避難にかかわる決まりの全体は消防設備の点検は年2回、消防署への報告は年1回ですにまとめています。夜間や早朝に作業をするかどうかは、施設の負担も大きいので、夜間工事はできますが、夜にしかできない工程だけに絞りますを読んでから決めます。
相談・見積は無料|同じ条件で最大3社
このお問い合わせ1本で、
最大3社の見積がそろいます。
モデルケース:有料老人ホームで、居室の空調と給水管を区画で回した
モデルケース:定員54名の介護付有料老人ホーム(4階建て・築22年)
1人あたりの居室の移動が、3〜4回の見込みから2回になった
変わったこと(結果)
居室の空調の室内機と給水管の更新を、居ながらで進めました。最初の工程表は1室ずつ順に回す形で、1人あたり3〜4回の移動が見込まれていました。区画ごとに回す形に組み直したことで、全員の移動が「移って、戻る」の2回になり、延べの移動は約190回から108回に減りました。移動の日の職員の追加は、1区画あたり3名で半日に収まりました。
背景と、困っていたこと
ホームは4階建てで、2〜4階に18室ずつ、すべて個室の居室があります。ショートステイの居室はなく、空き居室は2室だけでした。工事の会社が出した最初の工程表は、工事の都合で1室ずつ進める形でした。施設長は、移動の回数が増えると、転倒や夜の不穏につながることを心配していました。
決めたこと
施設長と工事の会社は、各階の18室を6室ずつ3つの区画に分けました。移り先は、空き居室2室、見学用に空けていたモデルルーム1室、多目的室を仕切った仮の居室3床の、合わせて6床です。そのために、新しい入居の受け入れを1か月半止めることを、本部に諮って決めました。決め手は、受け入れを止めて減る収入より、転倒の心配を減らすことを選んだ点でした。
進めてみて分かったこと
3階の区画で給水管の傷みが思ったより広く、工期は予定の5か月から10日延びました。月に4日の予備日を入れていたので、ほかの区画の移動の日はずらさずに済みました。
このモデルケースは、介護施設でよく起きる流れをもとに組み立てた例です。実在の施設のお話ではありません。
居ながら工事に備えて、平常時にしておくこと
居ながら工事に備えて、ふだんからしておくこと
- 居室ごとの家具の置き方を、写真に残しておく
- 静養室や多目的室を、仮の居室に使えるか確かめておく
- 行事と面会の多い時期を、1年の表にしておく
- 感染症が出たときに工事をどうするか、方針を決めておく
- 工事の会社に、居ながら工事の工程表の見本を見せてもらう
居ながら工事の段取りから、業者の実績を確かめる方法は実績は、居ながら工事の段取りを見せてもらって確かめますにまとめています。
居ながら工事の見積を、工程と移動の条件までそろえて比べたいときは、窓口にフォームかLINEでご相談ください。工事の場所と居室の数、移り先にできる部屋の数をお送りいただければ、最大3社に同じ条件で見積を頼めます。相談と見積は無料で、お断りもできます。建物全体の設計と工事の監理が要る規模の工事は、設計事務所に頼むほうが向いています。
よくある質問
介護施設の大規模修繕は、入居者が暮らしたままでもできますか
できます。介護施設の大規模修繕の多くは、入居者の方が暮らしたまま進める居ながら工事です。工事の順番と暮らしの予定を重ねた工程表を作り、居室の中の工事だけ、区画ごとに移ってもらいます。
居ながら工事の工程表には、何を書けばよいですか
工事の予定、暮らしの予定、職員の予定の3つを、同じ日付で並べます。暮らしの予定には、食事と入浴の時間、行事、面会の多い時期、感染症の増える時期を入れます。
外壁や屋上の工事でも、入居者の方は居室を移りますか
多くの場合、移らずに済みます。足場で居室が暗くなる、窓を閉める日がある、といった影響が中心です。移動が要るのは、空調の室内機や給水管など、居室の中に入る工事です。
居室の工事で、入居者の移動の回数を減らす方法はありますか
隣り合う数室を1つの区画にして、区画ごとに移ってもらう方法があります。1人あたりの移動は「移って、戻る」の2回で済みます。そのかわり、区画の室数と同じ数の移り先が要ります。
工事中の移り先は、どこを使えばよいですか
ショートステイの居室、空き居室、静養室や多目的室を仮の居室にする方法などがあります。受け入れを止める間の収入や、ナースコールと避難の経路を確かめ、着工の2か月前までに押さえます。
3階建て・定員80名の特養だと、居ながらの大規模修繕に何か月かかりますか
外回りと居室の空調・給水管を直す例では、8か月ほどの工程になります。外回りに4か月、準備に1か月、居室の中に3か月ほどです。工事の中身と区画の数で変わるので、区画ごとの日数を工事の会社に聞いて組みます。
ご家族には、いつ工事のことを伝えればよいですか
着工の1か月前に全体を伝え、移動する方のご家族には、移動の2週間前にその方の日程を伝えます。工程が変わったときと、工事が終わったときにも知らせます。
居ながら工事で、予定より工期が延びやすいのはどんなときですか
雨や風で外回りが止まるとき、開けてみて下地や配管の傷みが広いと分かったとき、体調や感染症で居室の工事を止めるときです。月に数日の予備日を入れ、追加の工事の決め方を契約の前に決めておきます。
施設で感染症が出たら、居ながらの工事は止めますか
居室の中の工事は止めるのが基本です。外回りは、作業の人の出入りを建物の中と分けられれば、続けられることがあります。どうするかは、着工の前に工事の会社と決めておきます。
認知症のある方の居室を移すとき、何に気をつければよいですか
同じ階の中で動き、家具の置き方を元の部屋とそろえ、なじみの物を先に運びます。移る日はなじみの職員が付き添い、移ったあとの数日は夜の見回りを増やします。
居ながら工事は、入居者がいない建物の工事より費用が高くなりますか
高くなることがあります。入居者の方がいる中の工事では、仮設・養生・時間帯の割増が、総額の2割〜4割になることがあります。区画の数や、1日に作業できる時間で変わります。
感知器やスプリンクラーを止める工事では、何を届け出ますか
工事中の消防計画を、所轄の消防署に届け出るよう求める消防本部があります(東京消防庁や仙台市の例)。火を使う作業の監督、避難の経路、止まる設備の代わりの手当てを書きます。
あわせて読みたい記事
- 大規模修繕は着工の2年前に動き出し、石綿の調査は設計の段階で済ませます介護施設の改修工事でも、建材を壊す・削る工事なら金額にかかわらず石綿(アスベスト)の事前調査が要り、2023年10月からは資格者が調べます。誰が調べ、費用と日数がどれだけ増えるかと、大規模修繕を着工の1年半〜2年前から、調査・計画・予算と補助・発注・工事・記録の順に進める方法をまとめました。
- 認知症のある方への配慮は、工事の段取りで変化を小さくすることです介護施設の工事で認知症のある入居者の方に配慮するには、工事の段取りで暮らしの変化を小さくします。変わる場所を少なく短くする、目印と動線を工事中も残す、知らない人の出入りと出入口を決める、音の時間をずらす、の4つと、工事を止める判断、ご家族と職員への知らせ方、着工前に決めることをまとめました。
- 騒音と粉じんは、時間帯だけでなく工法と区画でも減らせます介護施設の工事の騒音と粉じんの対策は、時間帯を選ぶだけでなく、音の小さい工法と機械を選ぶ、工事の場所を区画して養生する、空調と換気の通り道をふさぐ、の組み合わせで減らせます。音の伝わり方、臭いの減らし方、着工前の周知、業者に聞くことまでまとめました。
- 仮設・養生・割増の割合は、施設が渡す条件で変わります介護施設の工事の見積で、仮設費・養生費・時間帯の割増が総額に占める割合は、入居者がいる中の工事では2割〜4割になることがあります。足場や仮設の電気・水道・トイレ・空調などの仮設費、毎日張ってはがす養生費、夜間・休日の割増の中身と、割合を下げる条件、見積を頼むときに渡す条件をまとめました。
- 実績は、居ながら工事の段取りを見せてもらって確かめます介護施設の工事の実績は、数字の中身・工事経歴書・施工写真・紹介先・現場の見学の5つで確かめます。とくに、入居者がいる中での工事(居ながら工事)の工程表や区画の図、お知らせ、日報を見せてもらうと、段取りの経験が分かります。資料の6つの見どころと、工事の大きさごとの確かめ方をまとめました。
- 多床室の改修は、空ける居室の数で工事の区切りが決まります特別養護老人ホームのユニット化の改修と、多床室のプライバシーを守る間仕切りの改修は、入居者の方が暮らしたまま、工区に区切って進めます。2つの方向の違い、指定権者・設計者・消防署への事前の相談、段階施工の組み方、工事中の居室を1回の移動で回す方法、職員の体制の組み替えをまとめました。