介護施設の建て替えの時期は、築年数では決まりません。決め手は3つです。1つ目は耐震です。1981年6月より前の基準で建てた建物(旧耐震)は、まず耐震診断を受け、Is値0.6を目安に、補強で足りるかを見ます。2つ目は今の設備の基準です。建て替えると、居室の面積や定員、建物の大きさの制限が今のものになり、同じ敷地に同じ定員が入るかが変わります。3つ目は配管です。床や壁に埋まった管を、建物を壊さずに替えられるかを見ます。どれかが改修で解けないと分かったら、改修と建て替えを、1年あたりの費用と暮らしへの影響で比べます。
この記事の結論
- 建て替えの時期は、築年数ではなく耐震・今の設備の基準・配管の3つで決まる
- 旧耐震かどうかは、竣工の年ではなく確認済証の日付で見る
- 診断の結果がIs値0.6以上(木造は評点1.0以上)なら、倒壊の危険性は低いとされる
- 建て替えると今の基準と制限がかかり、同じ敷地に同じ定員が入るかが変わる
- 改修と建て替えは、1年あたりの費用・入居者の移動・定員・補助を同じ表で比べる
建て替えの時期は、築年数より3つの材料で決まります
介護施設を何年で建て替えるか、という決まりはありません。建物にも法定の耐用年数がありますが、これは減価償却に使う会計の年数です。その年数を過ぎても、建物は使い続けられます。法定の耐用年数と減価償却の考え方は建物附属設備の耐用年数は、設備の区分で決まりますにまとめています。
建て替えの時期を決めるのは、次の3つの材料です。耐震の基準を満たしているか。建て替えたときに、今の設備の基準で同じ定員が入るか。配管を、建物を壊さずに更新できるか。築年数は、この3つを調べ始めるきっかけとして使います。
| 材料 | 確かめること | 改修で延ばせる場合 | 建て替えを考える場合 |
|---|---|---|---|
| 耐震 | 1981年6月より前の基準か。耐震診断のIs値 | 新耐震か、補強で目標の値に届く | 補強の壁や筋かいで、居室や食堂が使いにくくなる |
| 今の設備の基準 | 居室の面積と定員、敷地の制限 | 今の部屋の形のままで、暮らし方と運営が回る | 多床室を変えたいのに、今の建物では個室にできない |
| 配管 | 管の材料と通り道、床下や天井裏の余裕 | 新しい管を通す道があり、系統ごとに替えられる | 管が床や壁に埋まり、居室を空けないと替えられない |
3つのうち、急ぐかどうかを決めるのは耐震です。設備の基準と配管は、使い勝手と費用の問題なので、準備に時間をかけられます。耐震は入居者の方と職員の命に関わるため、旧耐震の建物では、ほかの2つより先に診断を受けます。
同じ築40年台の建物でも、新耐震で配管を替えやすい建物と、旧耐震で管が床に埋まっている建物では、残りの使い方がまったく違います。築年数だけで「あと何年」と決めず、3つの材料を1枚の表にしてから、法人の中で話し合います。
旧耐震かどうかは、竣工の年ではなく確認の日付で見ます
耐震の基準は、1981年(昭和56年)6月1日に大きく改められました。この日より後の基準を新耐震、前の基準を旧耐震と呼びます。旧耐震の建物は、今の基準で求める強さに足りないことがあるため、耐震診断で確かめます。
見分けるときに気をつけたいのが、竣工の年です。建物は、建築確認を受けてから工事を始め、完成するまでに1年以上かかることがあります。1982年や1983年に完成した建物でも、確認を受けたのが1981年5月以前なら、旧耐震の基準で設計されています。竣工の年ではなく、確認済証の日付で見ます。
| 書類 | ある場所 | 見るところ |
|---|---|---|
| 確認済証 | 施設の保管書類(竣工図と一緒のことが多い) | 交付の日付。1981年6月1日より前なら旧耐震 |
| 検査済証 | 施設の保管書類 | 完成の検査の日付。確認の日付とは別 |
| 建築計画概要書 | 市区町村などの建築の担当で閲覧(古い建物は残っていないこともある) | 確認の年月日と番号 |
| 台帳記載事項証明書 | 市区町村などの建築の担当で発行 | 確認と検査の記録が残っているか |
| 竣工図 | 施設の保管書類 | 構造の種類と、増築した棟の年 |
増築した棟がある施設は、棟ごとに確かめます。本館は旧耐震で、あとから建てた棟は新耐震、ということがよくあります。渡り廊下でつながっていても、構造が分かれていれば、診断も補強も棟ごとに考えます。
新耐震の建物でも、それだけで安心はできません。コンクリートのひび割れや、中の鉄筋のさびが進めば、強さは落ちていきます。建物の定期報告(12条点検)で指摘された傷みは、場所と写真を記録して、次の調査につなげます。定期報告の中身と受け忘れやすい点は12条点検は4つに分かれ、防火設備の検査は別に受けますにまとめています。
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耐震診断が求められる建物と、診断の流れ
耐震改修促進法では、旧耐震で今の耐震の基準に合わない建物のすべてに、耐震診断と、必要に応じた改修に努めることが求められています。老人ホームなど、避難に手助けが要る方が暮らす建物は、規模によって、行政の関わりが強くなります。
| 規模 | 求められること | 行政の関わり |
|---|---|---|
| すべての規模 | 耐震診断と、必要に応じた改修に努める | 必要に応じて指導と助言 |
| 階数2以上かつ1,000㎡以上 | 同じく努める(特定既存耐震不適格建築物) | 指導と助言 |
| 階数2以上かつ2,000㎡以上 | 同じく努める | 指導と助言のほか、指示の対象。従わないと公表されることがある |
| 階数2以上かつ5,000㎡以上 | 耐震診断の義務。結果は2015年12月末までに報告(要緊急安全確認大規模建築物) | 診断の結果が公表される |
ここでいう老人ホームなどは、法令の言葉では「老人ホーム、老人短期入所施設、福祉ホームその他これらに類するもの」です。自分の施設がどこに当たるかは、建物のある市区町村などの建築の担当(所管行政庁)で確かめます。
診断は、構造の分かる建築士の事務所に頼みます。予備調査で図面と建物を見比べ、現地調査でコンクリートの一部を抜き取って強さを調べ、計算で階ごとの値を出します。竣工図や構造の計算書が残っていないと、図面を起こし直す手間が加わり、日数も費用も増えます。
耐震診断や、補強の設計と工事には、自治体の補助がある場合があります。補助の条件として、決まった方法での診断や、第三者の判定を求められることがあります。頼む前に、自治体の担当に補助の有無と条件を聞いておくと、診断のやり直しを防げます。
診断の結果は、Is値0.6を目安に読みます
鉄筋コンクリート造や鉄骨造の診断の結果は、Is値(構造耐震指標)という数字で出ます。国の告示では、Is値が0.6以上で、q値という別の指標も1.0以上なら、地震で倒れたり崩れたりする危険性が低い、とされています。木造は、評点(Iw値)1.0以上が同じ区分です。
| 区分 | 鉄筋コンクリート造・鉄骨造 | 木造 |
|---|---|---|
| 倒壊し、又は崩壊する危険性が低い | Is値0.6以上、かつq値1.0以上 | Iw値1.0以上 |
| 倒壊し、又は崩壊する危険性がある | 上と下のどちらにも当たらない | Iw値0.7以上1.0未満 |
| 倒壊し、又は崩壊する危険性が高い | Is値0.3未満、またはq値0.5未満 | Iw値0.7未満 |
Is値は、階ごと、縦と横の向きごとに出ます。建物の評価は、いちばん低い値で決まります。介護施設では、1階に食堂や浴室、玄関ホールなど、壁の少ない広い部屋が集まることが多く、1階の値が低く出ることがあります。報告書では、どの階のどの向きが足りないのかを見ます。
危険性が高いと出たときは、補強か建て替えかを決めるまでの手当ても考えます。値の低い階から入居者の方の居室を移す、家具の転倒を防ぐ、避難の経路と手順を見直す、などです。補強の工事が終わるまでの間にも、地震は起こり得ます。
危険性があると出たときは、補強の案と費用を出してもらいます。危険性が低いと出たときも、終わりではありません。コンクリートの劣化と、残りの2つの材料(設備の基準と配管)を見て、建て替えの時期を考えます。
補強の目標の値は、0.6を下限として、法人の方針や補助の条件で上に置くこともあります。どこまで上げるかで、補強の量と費用が変わります。診断の報告の場で、目標の値ごとに補強の案を出してもらうと、比べやすくなります。
補強の方法で、使い勝手と工事中の暮らしが変わります
補強が要ると分かったら、方法を選びます。同じ値まで上げる補強でも、方法によって、居室や食堂の使い勝手と、工事中の入居者の方の暮らしへの影響が大きく違います。
| 方法 | 中身 | 使い勝手と暮らしへの影響 | 向いている場所 |
|---|---|---|---|
| 耐震壁を増やす | 柱と梁の間に、鉄筋コンクリートの壁を足す | 窓や出入口がふさがる。工事の音と振動が大きい | 壁を足しても使い方に困らない部屋 |
| 鉄骨の筋かい(ブレース) | 柱と梁の枠に、鉄骨の筋かいを入れる | 部材が見えるが、光と風は通る | 窓の多い食堂や、廊下の端 |
| 柱の補強 | 柱に鋼板や炭素繊維を巻いて、粘りを増す | 1本ずつ進められ、工事の範囲が小さい | 柱の粘りが足りない建物 |
| 外側からの補強 | 建物の外に、フレームや控えの壁を付ける | 中の工事が少なく、暮らしたまま進めやすい | 建物のまわりの敷地に余裕がある建物 |
| 免震にする | 基礎の下などに、揺れを小さくする装置を入れる | 揺れそのものが小さくなるが、工事が大きく費用も高い | この先も長く使う建物 |
介護施設でよく問題になるのは、補強の部材が窓をふさぐことです。居室の窓は、明るさと風通しのもとで、避難の経路になることもあります。補強の案が出たら、図面の上だけで決めません。補強が入る部屋に職員と一緒に立って、ふさがる窓や通れなくなる場所を確かめます。
工事中の暮らしへの影響も、方法で変わります。壁を足す工事は、コンクリートを打つために型枠を組み、固まるまで待つ日が要ります。鉄骨の筋かいは、工場で作った部材を取り付けるため、施設の中で音の出る日を短くしやすい方法です。外側からの補強は、工事の多くが建物の外で進みます。
壁や天井に手を入れる補強では、着工の前に石綿(アスベスト)の事前調査が要ります。旧耐震の建物は石綿を含む建材が使われている見込みが高く、分析に回ると日数が延びます。大規模修繕の進め方と石綿の事前調査は大規模修繕は着工の2年前に動き出し、石綿の調査は設計の段階で済ませますにまとめています。
建て替えると、今の設備の基準と敷地の制限がかかります
2つ目の材料は、今の設備の基準です。今ある施設は、建てた当時の基準のまま使い続けられることが多くあります。4人部屋が中心の特別養護老人ホームが、経過の措置などで運営を続けている例も多くあります。けれども建て替えると、新しい建物として今の基準に合わせます。
今の国の基準では、特別養護老人ホームの居室は、1人あたり10.65㎡以上で、定員は原則1人です。4人部屋をそのまま壁で4つに分けても、壁や出入口に面積をとられ、1室あたりの面積が足りなくなることが多くあります。施設の種類ごとの居室の面積はバリアフリー改修は、介護保険・バリアフリー法・建築基準法で決まりますにまとめています。
| 変わること | 今の建物を使い続ける場合 | 建て替えた場合 |
|---|---|---|
| 居室の定員と面積 | 建てた当時の基準のまま使えることが多い | 今の基準の面積と定員に合わせる |
| 暮らしの単位 | 従来型のまま使える | 補助の条件などで、ユニット型を求められることがある |
| 建物の大きさ | 容積率や高さの決まりが後から変わっても、そのまま使える(既存不適格) | 今の決まりの範囲でしか建てられない |
| 敷地と道路 | そのまま使える | 道路に接する長さなど、今の決まりに合わせる |
| バリアフリーと省エネ | 建てた当時の決まりのまま | 今の決まりに合わせる |
とくに見落としやすいのが、建物の大きさの制限です。建てたあとに容積率や日影の決まりが厳しくなった地域では、今の建物と同じ大きさを建て直せないことがあります。建て替えの話を始める前に、建築士に、敷地の条件で何㎡まで建つか、居室が何室取れるかを試算してもらいます。
建て替えずに、部屋の形を変える道もあります。多床室を間仕切りで分ける改修や、ユニット化の改修です。進め方は多床室の改修は、空ける居室の数で工事の区切りが決まりますで書いています。今の建物で暮らし方を変えられるなら、設備の基準は建て替えの理由になりません。
配管を更新できるかで、改修で延ばせる年数が決まります
3つ目の材料は配管です。建物の骨組みは長く持っても、給水・給湯・排水の管は、それより早く傷みます。管を何度か替えながら建物を使うのが前提です。そのため、建物を壊さずに管を替えられるかが、改修で延ばせる年数を左右します。
| 見る点 | 替えやすい建物 | 替えにくい建物 |
|---|---|---|
| 管の通り道 | パイプスペースや天井裏を通っている | コンクリートの床や壁に埋め込まれている |
| 床下 | 人が入って作業できる床下の空間がある | 床下に空間がなく、床を壊さないと届かない |
| 天井裏の高さ | 新しい管やダクトを通す余裕がある | 梁の下に余裕がなく、天井を下げるしかない |
| 図面 | 設備の竣工図が残り、管の位置が分かる | 図面がなく、開けてみないと分からない |
| 止め方 | 階や系統ごとに分けて止められる | 1か所を止めると、建物全体の水が止まる |
管が床に埋まっている建物でも、替える方法がないわけではありません。古い管は使わないことにして、新しい管を廊下の天井や壁の外に沿わせて通す方法があります。ただし、天井が低くなる、見た目と掃除の手間が変わる、居室の中の工事で部屋を空ける日が要る、といった引き換えがあります。
管の傷み方は、材料と水の質で違います。設備ごとの更新の目安と、法定の耐用年数との違いは設備の年数は、3種類を並べてから更新の時期を決めますにまとめています。漏水や赤い水が続くようになったら、内視鏡や管の一部の抜き取りで、管の残りの厚さを調べてもらいます。
建て替えを10年以内に考えているなら、配管は全部を替えず、傷んだ系統だけを替えてつなぐ判断もあります。反対に、配管を全部替えれば建物をあと20年使えるなら、改修の値打ちは高くなります。配管の答えは、建て替えの年と組みにして考えます。
改修と建て替えは、1年あたりの費用と暮らしで比べます
3つの材料のどれかが改修で解けないと分かったら、改修と建て替えを同じ表に並べます。工事費の総額だけで比べると、たいてい改修のほうが安く見えます。総額を、その工事で使える年数で割り、1年あたりの費用で比べます。
費用の桁は、延床面積あたりの単価でつかめます。総務省の公共施設の更新費用の試算では、保健・福祉系の施設の単価を、1㎡あたり大規模改修20万円、建て替え36万円としています。延床3,000㎡なら、改修で約6億円、建て替えで約10.8億円です。公共施設の計画のための単価なので、今の工事費とは違います。桁と比率の目安として使います。㎡あたりの単価の使い方は大規模修繕の費用は㎡単価で桁をつかみ、量・単価・時期の3つで抑えますで書いています。
| 比べる項目 | 改修(補強と配管の更新) | 建て替え |
|---|---|---|
| 工事費の桁 | 約6億円(1㎡20万円の場合) | 約10.8億円(1㎡36万円の場合) |
| 使える年数 | 補強と更新で延ばせる年数。診断と調査で見積もる | 新しい建物として長く使う |
| 1年あたりの費用 | 工事費÷延ばせる年数+その間の修繕費 | (工事費+解体と仮の移転)÷使う年数 |
| 入居者の移動 | 暮らしたまま。階や棟ごとに部屋を移る | 仮の住まいか、敷地内の新しい棟へ移る |
| 定員 | 基本は変わらない。工事中は空床が出る | 今の基準と敷地の制限で変わることがある |
| 補助 | 耐震改修や大規模修繕の補助 | 老朽化した施設の改築などの補助 |
| かかる時間 | 診断・設計・工事。建て替えより短い | 設計・補助の手続き・工事。改修より長い |
たとえば、改修に6億円かけて20年延ばすなら、1年あたり3,000万円です。建て替えに10.8億円かけて60年使うなら、1年あたり1,800万円です。ここだけを見ると建て替えが有利ですが、建て替えには解体と仮の移転の費用、工事中の空床が加わります。改修には、延ばした20年の間の修繕費が加わります。足していくと、差は縮まることも広がることもあります(数字は比べ方を示すための例です)。
入居者の方の暮らしへの影響も、表に入れます。改修は暮らしたまま進めますが、工事の間に部屋を何度か移る方が出ます。建て替えは、敷地内に新しい棟を建てて移れるなら、移るのは1回で済みます。暮らしたまま進める工事の工程と、部屋の移り方は居ながら工事の工程表は、工事と暮らしの予定を重ねて作りますにまとめています。
法人の会議や理事会では、30年でかかる総額で案を並べると、比べやすくなります。資料の組み立て方は理事会が見るのは見積ではなく、傷み・30年の総額・資金・先送りの4つですで書いています。
建て替えの年を決めたら、それまでの修理の範囲を決めます
建て替えの年が決まったら、そこまでの修理の範囲を決めます。建て替えまで5年しかないのに、15年使う設備を全部入れ替えると、多くを使い切らないまま壊すことになります。いっぽうで、安全と雨と法令に関わる不具合は、残りの年数にかかわらず直します。
| 残りの年数 | 直すもの | 控えるもの |
|---|---|---|
| 10年以上 | 計画どおりに更新する。止まると困る設備は先に替える | 建て替えで不要になる増築や模様替 |
| 5〜10年 | 止まると困る設備は替える。ほかは部分的な修理でつなぐ | 建物全体の仕上げのやり直し |
| 5年未満 | 安全・雨漏り・法定の点検で指摘された不具合を直す | 設備の一斉の入れ替えと、内装の全面的な改修 |
止まると困る設備は、施設ごとに違います。給湯器が1台しかない、エレベーターが1基しかない、という設備がその例です。残りの年数が短くても、止まったときの代わりを用意するか、更新を選びます。修理でつなぐか替えるかは、部品の見通しと、止まったときの影響で決めます。
建て替えまでの年数で計画の範囲を決める考え方は、長期修繕計画は、30年・5年・単年の3つで持ちますにあります。建て替えの年を長期修繕計画に書き込み、毎年の予算を組むときに見直します。
モデルケース:竣工は1982年でも、確認は旧耐震だった特養
モデルケース:定員80名の従来型特別養護老人ホーム(鉄筋コンクリート造3階建て)
補強と建て替えを分けて決め、方針が9か月で固まった
変わったこと(結果)
「築44年だから、いずれ建て替え」という話が毎年持ち越されていた法人で、耐震診断の依頼から方針の決定まで9か月で固まりました。1階の4か所を鉄骨の筋かいで補強し、建て替えは8年後と年を置きました。建て替えまでに予定していた全館の空調の入れ替えは、止まった台から替える形に改め、その分を建て替えの準備に回しました。
背景と、困っていたこと
建物の竣工は1982年で、職員も法人の本部も新耐震だと思っていました。定期報告の準備で確認済証を出したところ、確認の日付は1981年3月でした。4人部屋が中心で、入居の相談では個室を望む声が増えていました。給水管は床のコンクリートに埋め込まれ、ここ2年で居室の床からの漏水が3回ありました。
決めたこと
事務長は、3つの材料を1枚の表にして、構造の分かる建築士の事務所に耐震診断を頼みました。結果は、2階と3階はIs値0.6以上で、1階の食堂のある向きだけが0.6を下回りました。配管は、居室を順に空けないと替えられないと分かりました。建て替えた場合は、敷地内の駐車場に新しい棟を建てれば、ユニット型で80名が入ると試算されました。
迷ったのは、1階を補強しても、配管と部屋の形の問題は残ることでした。決め手は、補強が1階の4か所で済み、暮らしたまま2か月で終わる見込みだったことです。安全は補強で先に確保し、配管と個室の問題は建て替えで解く、と分けて決めました。
進めてみて分かったこと
築年数で話していたころは、「いつ建て替えるか」だけが議題でした。材料ごとに分けると、急ぐもの(耐震)と、時間をかけて準備するもの(配管と部屋の形)が分かれました。毎年の会議で決めることも、はっきりしました。
このモデルケースは、介護施設でよく起きる流れをもとに組み立てた例です。実在の施設のお話ではありません。
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耐震と建て替えの補助は、年度と自治体で違います
耐震診断、補強の設計と工事、老朽化した施設の建て替えには、国や都道府県、市区町村の補助が使える場合があります。対象の施設、上限の額、募集の時期は、年度と自治体で違います。補助を使うときは、次の5つを確かめます。
- 対象診断だけか、設計と工事も入るかを見ます。施設の種類と規模の条件も見ます。
- 条件診断の方法、補強の目標の値、第三者の判定が要るかを確かめます。
- 募集の時期要望や申請の締切を確かめます。前の年度に必要な額を調べる例もあります。
- 着工の時期交付の決定の前に契約や着工をすると、対象になりません。
- 業者の選び方入札や相見積など、補助の条件に合う選び方にします。
介護施設の大きな工事の補助は、都道府県が国の交付金や基金を使って行うことが多く、前の年から動く必要があります。仕組みと動き出す時期は基金で大規模修繕の補助を受けるには、まず創設の条件を確かめますで書いています。補助を使う工事の、申請から完了までの流れと月数は補助を使う工事は、交付決定の通知が届くまで契約しませんにまとめています。
建物の耐震診断の補助は、市区町村の建築の担当が受け付けていることが多くあります。介護施設の改修や建て替えの補助は、都道府県や市の介護・高齢者福祉の担当です。耐震化の改修が、介護の担当の補助の対象に入っている例もあります。2つの担当に同じ時期に聞いておくと、診断から建て替えまでの年の並べ方を決めやすくなります。
建て替えの判断に備えて、平常時にしておくこと
平常時にしておくこと
- 確認済証・検査済証・竣工図の置き場所を確かめ、確認の日付を控える
- 増築した棟があれば、棟ごとに確認の日付と構造を一覧にする
- 旧耐震なら、自治体の診断の補助を調べ、診断の時期を決める
- 漏水や赤い水の記録を、場所と日付で残す
- 建て替えたときの定員の試算を、建築士に一度頼んでおく
法人の会議に出すときは、3つの材料の表と、改修と建て替えを並べた表の2枚から始めると話が進みます。
建て替えか改修かの材料をそろえたい、調査を誰に頼めばよいか分からない、というときは、窓口にフォームかLINEでご相談ください。竣工の年と構造、確認済証の日付をお送りいただければ、次に調べることと、見積を頼む先の候補をお返しします。耐震診断そのものは、構造の分かる建築士の事務所が行います。相談と見積は無料で、お断りいただいてもかまいません。
よくある質問
介護施設は、築何年で建て替えるのが目安ですか
築年数で決まる目安はありません。耐震の基準を満たすか、建て替えたときに今の設備の基準で同じ定員が入るか、配管を壊さずに替えられるかの3つで決めます。築年数は、この3つを調べ始めるきっかけとして使います。
旧耐震の建物かどうかは、どの書類で確かめますか
確認済証の交付の日付で確かめます。1981年6月1日より前に建築確認を受けた建物は、旧耐震の基準で設計されています。確認済証が見当たらないときは、市区町村などの建築の担当で、建築計画概要書や台帳記載事項証明書を出してもらえるか聞きます。
1982年に完成した施設なら、新耐震と考えてよいですか
そうとは限りません。完成が1982年でも、建築確認を受けたのが1981年5月以前なら、旧耐震の基準で設計されています。竣工の年ではなく、確認の日付で見ます。
耐震診断が義務になっている介護施設は、どんな建物ですか
旧耐震の老人ホームなどで、階数2以上かつ床面積5,000㎡以上の建物は、診断が義務です(結果の報告は2015年12月末まで)。それより小さい建物も、今の基準に合わなければ、診断と改修に努めることが求められます。1,000㎡以上は指導と助言、2,000㎡以上は指示の対象にもなります。
Is値が0.6に届かなかったら、すぐに建て替えなければいけませんか
いいえ。補強で0.6以上に上げる方法があり、補強で足りるなら、建て替えを急ぐ理由にはなりません。補強の部材で居室や食堂が使いにくくならないか、配管や部屋の形の問題が残らないかもあわせて見て、改修と建て替えを比べます。
耐震診断は、どこに頼めばよいですか
構造の分かる建築士の事務所に頼みます。自治体の建築の担当で、診断の補助や、診断を受け付けている事務所の案内をしていることがあります。補助を使うなら、条件に合う方法で診断してもらうため、頼む前に担当に確かめます。
耐震補強の工事は、入居者が暮らしたままでもできますか
多くの場合、暮らしたまま進められます。建物の外から補強する方法や、鉄骨の筋かいを入れる方法は、施設の中の工事が少なくて済みます。音と振動の出る日は、補強が入る部屋の方に一時的に移ってもらうことがあります。
建て替えると、今より定員が減ることはありますか
あります。建て替えると、今の居室の面積や定員の基準と、容積率などの敷地の制限がかかるためです。建て替えの話を始める前に、同じ敷地に何名分の居室が建つかを建築士に試算してもらいます。
配管が古いことは、建て替えの理由になりますか
管が床や壁に埋まり、建物を壊さないと替えられない場合は、建て替えを比べる理由になります。新しい管を通す道があり、系統ごとに替えられるなら、配管の更新で建物を長く使えます。建て替えの年と組みにして、全部を替えるか、傷んだ系統だけを替えるかを決めます。
改修と建て替えの費用は、何で比べればよいですか
工事費の総額ではなく、使える年数で割った1年あたりの費用で比べます。建て替えには解体と仮の移転の費用を、改修には延ばした年数の間の修繕費を足します。入居者の方の移動、定員、補助も同じ表に並べます。
建て替えが決まったら、それまで修繕はしなくてよいですか
いいえ。安全、雨漏り、法定の点検で指摘された不具合は、残りの年数にかかわらず直します。控えるのは、建て替えまでに使い切れない設備の一斉の入れ替えや、内装の全面的な改修です。
耐震診断や建て替えに使える補助はありますか
あります。耐震診断や補強には市区町村などの補助、老朽化した介護施設の建て替えには都道府県の補助が使える場合があります。どれも年度と自治体で条件が違い、交付の決定の前に契約や着工をすると対象になりません。
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